グラン・ブーケ | 監督 吉開菜央
台風の接近を心配しながらも、第4弾となるZAFアートフィルムレクチャーが開催されました。本日の講師は吉開菜央さん。 監督作品「GrandBouquet」が今年のカンヌ映画祭監督週間に選出され、あいちトリエンナーレでも上映されているほか、 米津玄師の大ヒット曲「Lemon」のMVでは自ら出演・振付・監督も。映像をメインに、ダンサー・振付家でもあることを 軸として活躍しています。
■ダンス・フィルム ワークショップ
前半は”ダンス”のワークショップ。とは言っても、音楽は使われません。身体を緩める動き、ストレッチ、歩いてみる、上半身の力を抜く、 四つん這いになって、参加者同士ですれ違ったりぶつかったり。例えば”死体になってみよう”という(!)パートでは、”死体”のように 全身の力を抜いて、パートナー役がその体を動かしてみる・立たせてみる。重たい、グラグラの身体を、本人がまったく動かずに、周りの 人の手で直立させてみるのは想像以上に大変で、みんなで試行錯誤。
吉開さんの自然な声掛けで、普段の生活ではあまり使わない身体の動きに、参加者の顔が笑い、一体感が生まれていきます。
音楽は無い中で、目で人の動きを見て、気配に触れて、そんな動きから、音が湧き上がってくるような、音楽的なものを感じ始める――という、 吉開さんの作品に通底する秘密の種明かしとも言える時間になりました。


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力を抜く体の使い方に、影響を受けたそう。
■アーティストトーク
後半は、吉開さんの監督作品を実際に見ながら、自身の作品づくりについてのトーク。学生時代は体育大学でダンス を専攻していた吉開さん。そこから次第に、視覚情報と音を”振付”して映画にしてみせたい、それによって見る人の 内面に沸き立つものがあれば、それはもうダンスだ、と感じるようになるまでを、駆け足ながら説明してくれました。 一般にイメージされるストーリーがある映画”ではない映画”を扱う”アートフィルム”レクチャー、その作り手の ストーリーに、会場は興味津々です。
もともとは「お風呂で踊りたかった」(!)ものの、それを舞台上で実現することは現実的には難しいと考え、 映像ならば、と、映画づくりにトライしてみたのが始まりでした。やってみると、映像を手元で編集できることが楽しかった。 編集することに「映像のリズムを感じて」、徐々にのめり込んで行きます。そこから、ミュージックビデオをたくさん 作っていきました。

    Rosas“Rosas danst rosas”
この頃、特に影響を受けたと感じているのがベルギーのダンスカンパニーの作品、 「ローザス・ダンス・ローザス」。アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルによる、ミニマルミュージックに振付をした ミニマルダンスであったり、また、ティエリ・ドゥメイの作曲・監督作品「テーブル・ミュージック」 「サイレンス・マスト・ビー」の影響を、今になってあらためて実感しているそう。一定の音に特定の動きが決められているという、 音楽と踊りの関係に、かっこいい!こんなことがしたい!と思いを強めます。
初めての自分の作品は、1分間で日常の音を選んで映像を作るという、芸大の大学院入試課題でした。「初めて自分で”作曲”したと思えた」。 誰かが作った音楽がなくても、自分の作品を作れたという手ごたえを得たことから、吉開さんの映像制作が始まりました。 動画にも音にも”振付”ができると考え、音楽をつけない作品を作っていきます。音楽があれば、それを元に決めることもできる編集点 (映像のつなぎ目)が、音楽はないので自由に決めなければいけない。決まりのない素直な身体の動きを撮影し、撮った映像の中から、 名前がつかない感情やことばで説明し難いストーリーを探す作業を重ねました。 なにもかもを自分一人で決定して作業していく個人制作では、まず何を撮影したいかを箇条書きにし、それらをひとつひとつ撮影しながら その場の即興で何を撮るかを実際に決めていき、撮れたものに応じて構成・編集して一本の作品に完成させます。「私の作品は、感情じゃなくて、 その手前の”情動”を扱っているのかもしれない」。
まず動画を作って、後から音をつけて制作する短編アートアニメ作品が、繰り返しがあるという点でも、自分がつくりたいものに近いと 感じたことがありました(参考:和田淳「わからないブタ」)。ダンスでもあり演劇でもある作品を発表し続けたピナ・バウシュのように、 撮ること/編集すること/音をつけること、それら全てが、吉開さんにとっては、作曲であり、振付であり踊ることであり、さらにその全てが 情動から始まっている。それぞれの作品を解説しながら、彼女自身のことも伝えてくれた吉開さん。それに応じて、夏も終わりの頃、 畳の部屋が会場だったことも効果を発揮し、ZAFアートフィルムレクチャーならではの濃密な時間になりました。
~作品紹介~
「I want to go out」
秋吉台で撮影。現地での上映会で、地元在住の人と共有できたことが印象深かったとのこと。口の中にある空気/口笛で出る空気にもフォーカス。

 trailer|ほったまるびより
「ほったまるびより」
音が大事な物語。これまでの個人制作での撮影とは異なり、チームへの説明が求められれるため撮影に入る前に140枚の紙芝居で構想しました。 予算がつき、完成させることが求められていたことで、作り方も変化。あらすじとして言い表せるような物語があるわけではないが、 見ていて先が気になるように作った。

「風にのるはなし」
本作も、紙芝居を作って構想。「また作曲ができた」と実感したという、音で作った作品。「音を付けると物語になる」。
質疑応答では、フェティシズムについて質問がありました。(私見でも、最近の時事的な面でもある、女性というテーマが 連想させられるなと感じていたのですが、)例えば「ほったまるびより」に登場する白い妖精(肌着姿の少女たち)はジェンダーが ない設定だったりと、これまではっきりと意図してきてはいないのだそう。意識的に含めていない要素でありつつも、もしかすると、 同時代にいて、身体に興味を持っていれば、それは当然のように通底して大きく含まれる要素なのかもと感じました。作家本人から、 風のような話し方の解説を聞いていると、作品は作者の全部入りなんだなと、少し解像度の高いまなざしで作品を観られるようになった 気がしました。


【おすすめ本】伊藤 亜紗「どもる体」
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あらかじめ決まっていることや、調和ではない、規則性から反したものが撮りたい気持ちに呼応した本。例えば「ほったまるびより」は、 ハッピーエンドかもアンハッピーかもわからない作品。

執筆:荻野 珠



Zushi Art Films Project

Zushi Art Filmsでは、様々な芸術分野における、映像表現を話し合います。